BOOK GUIDE vol.I | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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品切れ本を中心とした書評ページです。 |
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澁澤龍彦 1974年10月1日発行 青土社刊 258ページ 目次 今回、本書を再読し始めて、おやっと思った。遠い記憶では、澁澤氏の著書というのは、プリニウスだのキルヒャーだのブルトン、バシュラール....といった洋書からの引用のコラージュでなりたっていて、本人の言うところの「リヴレスク」な、いわば観念の遊技場のようなものだという印象が強かった。だが、「リヴレスク」という印象はかわらないものの、そのテーマの渉猟においては、意外にひとつの指向性が太くつらぬかれていることに気づかされた。氏の興味は、いつも「形態」へと強力に引きつけられているのだ。本書の半ば過ぎで、氏自らがこう述べている。「私の知識はイメージとして、まず目から入ってきたものが多い」。 順に見ていこう。「石の夢」では、鉱物が自然に作り出す模様やかたちが、昔から人々にさまざまな夢を見させてきたことを語る。かたちの世界に分け入るのにふさわしい悠々とした筆致の序章だ。次の「プラトン立体」では、正多面体という幾何学的形態と人類との長い関わり合いが、マクロスケールではケプラーの天文学、ミクロスケールでは近代の結晶学を例にとって述べられる。「螺旋について」では、ピラネージの版画集《牢獄》に見られる螺旋階段をきっかけに、バロック美術と螺旋のかたちについての関係を語る。 「『ポリュフィルス狂恋夢』」は、F.イェーツも重要視している『ポリュフィルス狂恋夢』という奇書についての紹介文。ここではユングを援用しながら、無意識界の図像化というテーマが語られる。この『ポリュフィルス狂恋夢』は、木版画の図版も貴重だが、本文の文字組がさまざまなかたちを象ってレイアウトされていることでも有名である。ジョスリン・ゴドウィンによって、オリジナル本の復刻というかたちで、1999年に英訳された(実にこれが初めての英語完訳)。日本語訳はまだない。 「幾何学とエロス」は、18世紀フランスの奇想の建築家ルドゥーと、同時代のフーリエ、サドの精神的類似性について述べられる。章のタイトル通り、幾何学的形態と、エロスという情念の関係に着目したものだ。ルドゥーの研究家カウフマンの説を、18世紀フランス文学研究家の立場から批判する記述は貴重。数多の書をただ読み散らすだけでなく、批判的に消化していたその能力には感動させられる。ルドゥーといえば、磯崎新氏が紹介し始めたばかりで、日本ではだれも知る者がいなかった頃のことだ。 「宇宙卵について」では、生命の初源的なかたちである卵が、錬金術との関わりの中で考察される。この章と前の章にはシャステルの引用があり、『ロレンツォ豪華王時代におけるフィレンツェの芸術とユマニスム』の書名が見える。この名著は桂芳樹氏が現在、翻訳中らしいが、ルネサンス美術の研究書としては必読書のひとつ。それにしても、並みの美術史研究家には真似のできない勤勉ぶりだ。 「動物誌への愛」では、「元型としての動物」に向けられる興味、「紋章について」では、「物体から形象への推移に対する関心」が、「ギリシアの独楽」では、いまでは確かな用途さえわからなくなった古代ギリシアの呪術の道具〈イユンクス〉や〈ロンボス〉が、純粋に形態学上の面白さに惹かれるという個人的な思い入れとともに楽しげに語られる。 「怪物について」では、アンブルワズ・パレという16世紀のフランス人外科医の著した『怪物および異象について』という奇書を取りあげて、人間の想像力が生みだす怪物の形態が、ある本質的な連続によって結ばれ合っていることの面白さを指摘する。「ユートピアとしての時計」も澁澤好みの横溢した章。本人の弁を借りれば、「時計はユートピアのイメージそのものなのであり、時計は一個のオブジェという形のもとに、あらゆるユートピア的構造の特徴を再現しているものなのだ」。 「東西庭園譚」は、人間が庭造りに際して造形化するのが、東洋は自然のかたちであり西洋は人工のかたちであるという対比の妙に着目し、両者を18世紀につなぎ合わせたイエズス会の伝道師たちの役割について思いをはせる。 こうして、人工と自然のかたちについて述べたあと、最後の「胡桃の中の世界」では、形と大きさについての不思議が、幼年時代の体験をもとに追想される。 渋澤氏の有名な『夢の宇宙誌』につづき、10年の時をおいて完成された本書は、古今東西の書物から自在に選ばれ組み合わされた、かたちの博物誌だ。美術史や博物学の好きな人にはこたえられない豊富な話題が、幼児の遊び場のなかで玩具が散らかされたように、気ままに投げ出されている。現在は河出文庫で入手可能。 by takahata: 2005.01.30 |
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『ポリュフィルス狂恋夢』コロンナ |
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