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失われた本を求めて
BOOK GUIDE vol.III

品切れ本を中心とした書評ページです。

エッセイ・評論 思想・芸術 文学

七人の使者  ── ブッツァーティ短編集

ディーノ・ブッツァーティ/脇功 訳

1974年1月30日発行 河出書房新社刊 238ページ
「モダン・クラシックス」

目次
七人の使者/大護送隊襲撃/七階/それでも戸を叩く/マント/竜退治/Lで始まるもの/水滴/神を見た犬/なにかが起こった/山崩れ/円盤が舞い降りた/道路開通式/急行列車/聖者たち/自動車のペスト

なぜ、ブッツァーティの短編集を手に取ったのか、それは忘れてしまった。しかし、最初の第一話を読み了えたときの興奮は、いまでもかすかに蘇ってくる。初めて読んだ短編集というのは、ガリマールのフォリオ叢書の一冊『バリヴェルナ荘の崩壊』というフランス語訳の本だ。ブッツァーティは、当時のフランスでは絶大な人気のあるイタリア人作家で、愛好会が研究年報を出版し、ほとんどの作品が文庫本化されていた。ブッツァーティ自身もフランスびいきらしく、前衛芸術家のイヴ・クラインとは無二の親友であった。セーヌ河畔でのパフォーマンス記録写真が残されていて、ブッツァーティはクラインの介添え役を務めている。もっとも、ブッツァーティは絵描きとしても知られた人物で、日本で最初に紹介されたのはおそらく、マルセル・ブリオンの『幻想芸術』(1968年 紀伊國屋書店刊)で、幻想画家としてであった。そこにはかれの《世界の終末》という不気味な風景画がカラーで紹介されている。

前置きが長くなった。ブッツァーティの短編の持ち味を簡潔に言い表すならば、カフカと筒井康隆を混ぜ合わせたおもしろさと言ったらよいだろうか。主人公はたいていは、カフカ的な「不条理な」状況に投げ込まれる。なぜ、自分はこんなところにこうしているのか。早く逃げ出さなければ。しかし、どこにも出口が見つからない。そうして、ぐずぐずしているうちに、不気味なカタストロフィが迫ってくる....。これがブッツァーティの世界の主調低音である。

『七人の使者』のなかでは、病院に入院した患者が、本人の意思に反してどんどん重病患者のいる階に移されていく「七階」。北に向かうノンストップの特急列車に乗った男が、窓の外を眺めていると、あたりの住人が誰も彼も大あわてで南に逃げていくのに気づく。しかしその原因が分からない。やがて列車は無人の駅のプラットホームに滑り込んでゆく、という「なにかが起こった」。プロットが簡単であるだけ、そこからたちのぼる不気味さは執拗で、ひたひたと染みわたってくる。

一方で、ブッツァーティには詩的な余韻を残す名品も少なくない。本書では、表題作の「七人の使者」がそれにあたり、わたしにとっては、本作こそブッツァーティの短編のベスト・ワンだ。たった7ページの、一人称で語られるこの短編は、典雅な散文詩のように美しい。

本書は1990年に新装版が出版され、さらに新たに編まれた短編集『待っていたのは』も2年後の92年に刊行されたが、いずれも品切れ。同じく92年に図書新聞から刊行された『階段の悪夢』も品切れ。これも表題作が絶品なのだが。しかしながら幸いにも長編の『タタール人の砂漠』は松籟社版が入手可能。

by takahata: 2004.11.30

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七人の使者_ブッツァーティ

文学篇

01『ホーニヒベルガー博士の秘密』
          エリアーデ

02『七人の使者』ブッツァーティ
03『木のぼり男爵』カルヴィーノ
04『陰鬱な美青年』グラック
05『丘の上の悪魔』パヴェーゼ
06『ゴーレム』マイリンク
07『瘋癲老人日記』谷崎潤一郎
08『蜜のあはれ』室生犀星
09『一休』水上勉
10『伝奇集』ボルへス
11『不死の人』ボルへス
12『天守物語』泉鏡花
13『黒の過程』ユルスナール

クラインとブッツァーティー
クラインとブッツァーティー(右端)
幻想芸術_マルセル・ブリヨン

『幻想芸術』マルセル・ブリヨン

待っていたのは_ブッツァーティ
『階段の悪夢』_ブッツァーティ

『待っていたのは』

『階段の悪夢』

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